夏休みの過ごし方

花野井クリニック 蔡 榮基
(平成14年8月柏医師会誌に掲載したものです)

 14年間の勤務医生活を終え、3月に開業致しました。7月末急きょ医師会から夏休みの過ごし方について文章を書いてほしいという要望がございました。

 今まで医師会にいろいろお世話になり、文章くらいなら、出来れば協力させていただこうと思います。しかし振返えってみればこの10数年間、自分は自分らしき夏休みをあまり過ごしたことがないのではないかと驚きました。

 結婚前、大学に在籍していた時、自分の研究のスケジールをうまく分配すれば土曜、日曜を入れて、1週間位の休みをとるのは不可能ではありませんでした。マイカーで涼しい北海道をゆっくり一周しようと思ったり、某先生のように夏休みの海外旅行時、飛行機の中で美人スチュワーデースと知りあって、たのしいロマンチックなバカンスを堪能したり、などなどの空想や夢を持っていました。残念ですが結論から申し上げると夢は一度も叶ったことがありませんでした。冷房のきいでいる研究室や図書館で夏休みを過ごしたのがほとんどでした。結婚後、まもなく柏の総合病院に就職になりました。夏休みをとれますが病棟に常に重症患者がいる超忙しい病院だったので安心して休暇を取ってのんびり過ごせる状況ではありませんでした。休暇中にもかかわらずかならず病棟に一日数回電話を入れたり、状況を聞いたり、指示を出したりします。担当医が休みの時、他の医師が代わりに診てくれるという建前がありますが自分のできる範囲で自分が自分の患者様を診たいという性格のせいで、ついつい自分が自分をゆっくり休めない状況に追い詰めました。

 自分の自由な時間を求めるために勤務医生活に休止符を打ち、開業した今年は雑用が多く、夏休みまで考える余裕が出てきたのは7月中旬でした。新規開業のため8月中旬しか休めないという前提で夏休みを組み始めました。経済力の関係でまず国内、更にマイカーで行ける近い所の避夏地を探しましたが満杯でした。仕方なく少々遠く、新幹線で行く範囲まで条件を緩めましたが(時期の関係かも知れないが)ダメでした。あちこちのホテルはみな一杯でした。宿が取れないと旅行がなりたたないので、3ヵ月間小遣いなしの覚悟で、思い切って1人1泊3万円余りの5スタークラスのホテルにも問い合わせしたがやはり超満員でした。誰が日本の景気が悪い、国民の財布のヒモが固いと言ったっけ?むしろ私自身の財布の中身が寂しいだけではないでしょうか?たしかに小泉首相は今年の夏休みを安く、近く、短く過ごしたいと記者団に話したが安、近、短は庶民の私には無理らしいです。ですから私は本年の夏休みも無作為に柏の自宅でおとなしくテレビのくだらない番組を観るか、昔の同僚が経済援助のつもりで紹介してくれる当直を熱帯夜と共に過ごすでしょう。あの頻回の救急、あの30分ごとの病棟コール・・・、Oh!My God!